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Valuation Method

転換社債価値評価手法

M&Aなどの取引、資金調達、会計目的などに用いる、一般的な転換社債価値評価手法について解説いたします。

転換社債価値評価の理論

会社法2条22号に新株予約権付社債が規定されている。新株予約権付社債は、文字通りその付帯される権利を考慮して、株式転換権などが付与されていない普通社債の評価手法とは異なる手法により評価が行われる事が実務である。

なお、当社のWebフリーシミュレーション(無料で転換社債価値評価のシミュレーション)は、転換社債を対象に二項モデル(Binomial Model)を採用している(評価シミュレーションはコチラへ)。

新株予約権付社債

会社法上、2条22号に「新株予約権付社債」が定義されているが、従来の商法において区分されていた「転換社債」および「新株引受権付社債」が統合されたものである。

現状の実務においては、下記2区分で発行がなされている。

① 新株予約権の分離譲渡ができず、新株予約権の行使によって社債が株式に転換される社債:
  従来の転換社債であり、「転換社債型新株予約権付社債」または「CB(Convertible Bond)」の事
② 同様に新株予約権の分離譲渡ができないが、新株の取得にあたり別途代金を払込むため、普通社債と
  株式が併存する社債:
  従来の新株引受権付社債であり、「非分離型新株予約権付社債」または「ワラント付社債」の事

なお、新株予約権の分離譲渡が可能な「新株引受権付社債」については、社債券と新株予約権証券(ワラント)の同時発行という位置付けとなったため、新株予約権付社債には含まれない。

会計上、「転換社債型新株予約権付社債」と「その他の新株予約権付社債」に区分され、複合金融商品に関する会計処理として以下のように規定されている。

① 「転換社債型新株予約権付社債」:一括法または区分法
② 「その他の新株予約権付社債」:区分法

一括法:社債の対価部分と新株予約権の対価部分に区分せず、普通社債の発行に準じて処理
区分法:社債の対価部分と新株予約権の対価部分に区分した上で、社債の対価部分は普通社債の発行に
    準じて処理し、新株予約権の対価部分は新株予約権の発行者側の会計処理に準じて処理

税務上、財産評価の基本通達において、「転換社債型新株予約権付社債」として、課税時期の最終価格などと源泉所得税相当額控除後の既経過利息の額との合計額によって評価する事が規定されている。なお、対象となる転換社債は以下のように区分されている。

① 金融商品取引所に上場されている転換社債
② 日本証券業協会において店頭転換社債として登録された転換社債
③ ①又は②に掲げる転換社債以外の転換社債

転換社債の評価手法

転換社債型新株予約権付社債(以下、転換社債)を第三者に発行する局面では、普通株式への転換請求権のオプションが付与されているため、オプションの価値を織り込むことになる。

オプションの一般的な評価手法は二項モデル・三項モデルなどの行使モデル、ブラックショールズモデル、モンテカルロシミュレーションなどの手法を用いる。オプション評価の詳細は「ストックオプション価値評価手法」を参照されたい。

転換社債は、転換価額(当初発行価額)を修正する条項が付されることもあり、さらに、一定の転換期間が設けられる事が通常である事から、ヨーロピアン・オプションを前提としたブラックショールズモデルは適切ではない。

そのため、新株予約権の分離譲渡ができない事も鑑み、社債として保有した場合の社債価値と株式に転換した場合の株式価値の合算で評価し、アメリカン・オプションを前提として、二項モデル・三項モデルなどの行使モデル、モンテカルロシミュレーションなどの手法を用いる。

転換社債の評価における前提条件として、主要なパラメータの一つである「クレジットスプレッド」および「ボラティリティ」について以下紹介する。

クレジットスプレッド

信用リスクに起因する、リスクフリーレートとの金利差であり、デフォルトリスク、流動性リスク、回収リスクなどに起因する超過リターンである。クレジットスプレッドは、発行体の信用力を表す格付と一定の相関関係が存在するため、対象会社が社債を発行しておらず、格付けを取得していない場合、同格付けの会社が発行している社債スプレッドを利用する。

参考までに、幅広い格付けにおいて社債が発行されているアメリカを対象に、大手格付け機関S&Pが付与している格付けごとに発行会社が発行している社債の2015~2017年(3年間)のスプレッド(アスク、bp)を分析すると下記のような傾向がある。

S&P格付け AAA AA A BBB BB B CCC CC C
スプレッド 72 64 86 127 274 396 652 865 4636
データ数 70 362 801 1191 494 463 138 4 1

ボラティリティ

ボラティリティは、株価の対数リターンの標準偏差であり、用いる株価の過去実績または将来予測の観点からヒストリカルボラティリティまたはインプライドボラティリティに区分される。一般的にはヒストリカルボラティリティを採用し、非上場企業であれば上場類似会社の株価を用いる。

ヒストリカルボラティリティ

1年あたりの対数リターンの標準偏差であり、ボラティリティσは以下のように示される。

\[ Δi = ln\frac{S_i}{S_{i-1}} \]
\[ σ = \sqrt{\frac{days}{n}\sum^{n}_{i=1}Δi^2} \]

S:株価
days:1年あたりの取引日数
n:取引データ数

インプライドボラティリティ

実際に取引されているオプションプレミアムとオプション評価における各パラメータ(権利行使価格、原資産価格、満期までの期間、配当、利率)から、残りのパラメータであるボラティリティを推測して計算する。