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非上場株式の
低額譲渡・高額譲渡
- 適正な時価と
課税上の取扱い -
非上場株式の取得に税法が介入する場合は留意
非上場の株式は市場で売買されておらず、また気配相場のない株式、いわゆる取引相場のない株式は時価が明らかではない。株式売買の当事者が株式の適正な時価を評価するためには、一般的には、別稿「財務デューデリジェンスと企業価値評価の連携」に掲載した通り、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、ネットアセットアプローチの評価手法のいずれかまたはすべてを用いて株式価値を評価する。M&Aのように純然たる第三者間の売買においては、種々の経済性を考慮して定められた価額であれば合理的なものとして、税法が介入することなく、両者が合意した取引価格が適正な時価となる。
一方で、純然たる第三者間の売買でない場合、税法が介入し、所得税法・法人税法が援用する財産評価基本通達に基づいて、実務上、適正な時価を評価することになる。本稿では、非上場株式の適正な時価および低額譲渡または高額譲渡における課税上の取り扱いについて、下記前提条件および定義に基づいて整理する。
前提条件について、本稿では売手が取得していた非上場株式の取得価額は、適正な時価の1/2未満の低い価額(低額譲渡)より低い価額とする。また、定義について、高額譲渡は、時価部分と高額部分に区分、低額譲渡は、取引部分と低額部分に区分して整理する。なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることをはじめに申し添える。
前提条件
高 | 取引価額(高額譲渡:時価より高い価額) |
---|---|
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適正な時価 |
取引価額(低額譲渡:時価の1/2以上の低い価額) | |
取引価額(低額譲渡:時価の1/2未満の低い価額) | |
発行法人の資本金等の額 | |
低 | 取得価額(売主が取得した価額) |
定義
時価譲渡 | F | 時価部分 = 適正な時価 - 取得価額 | - | - |
---|---|---|---|---|
高額譲渡 | Ha | 時価部分 = 適正な時価 - 取得価額 | Hb | 高額部分 = 取引価額 - 適正な時価 |
低額譲渡 | La | 取引部分 = 取引価額 - 取得価額 | Lb | 低額部分 = 適正な時価 - 取引価額 |
課税関係
非上場株式の譲渡は、個人・法人から4体系に大別される。体系別に買手および売手の課税関係について以下の通りとなる。なお、買手が法人、かつ、自己株式の取得の場合の課税関係についても併せて整理する。
買手 | ||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
個人 | ||||||||||||||||||||||||
売手 | 個人 |
売手・買手:相続税法7、所得税基本通達59-6または法人税法基本通達9-1-14を参酌 |
買手 | ||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
法人 | ||||||||||||||||||||||||
売手 | 個人 |
売手:所得税基本通達59-3、59-6、所得税法59、所得税法施行令169、租税特別措置法9-7-1 |
買手 | |||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
個人 | |||||||||||||||||||||||
売手 | |||||||||||||||||||||||
法人 |
売手:法人税法基本通達9-1-14 |
買手 | |||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
法人 | |||||||||||||||||||||||
売手 | |||||||||||||||||||||||
法人 |
売手:法人税法基本通達9-1-14 |
① 個人(売手) ⇒ 個人(買手)
低額譲渡の場合
売手:取引部分(La)は、所得税(譲渡所得)が課税され、低額部分(Lb)については、課税
関係はない。
買手:低額部分(Lb)については、贈与税が課税される。
高額譲渡の場合
売手:時価部分(Ha)は、所得税(譲渡所得)が課税され、高額部分(Hb)は、贈与税が課税
される。
買手:高額部分(Hb)は、課税関係はない。
② 個人(売手) ⇒ 法人(買手)
低額譲渡の場合
売手:取引部分(La)は、所得税(譲渡所得)が課税され、低額部分(Lb)については、取引
価額が時価の1/2未満の場合、または同族会社に譲渡した場合、時価で譲渡したものと取
り扱われ、所得税(みなし譲渡所得)が課税される。
非上場株式が自己株式の場合、取引価額が資本金等の額を超える部分は、所得税(みな
し配当所得)、資本金等の額と取得価額の差額は、所得税(譲渡所得)となる。ただし
、相続株式の3年以内の譲渡は、所得税(みなし配当所得)とならず、全額、所得税(み
なし譲渡所得)が課税される。
買手:低額部分(Lb)については、法人税(受贈益)が課税される。さらに、同族会社の株主
からの取得の場合、同族会社の他の株主は、贈与税(みなし贈与)が課税される。
非上場株式が自己株式の場合、資本等取引に該当するため、原則として法人税(受贈益
)は課税されないが、合理的な理由がない場合、課税される可能性がある。
高額譲渡の場合
売手:時価部分(Ha)は、所得税(譲渡所得)が課税され、高額部分(Hb)は、所得税(第三
者:一時所得、役員・従業員:給与所得)が課税される。
買手:高額部分(Hb)は、寄付金または賞与(第三者:寄付金課税、役員:役員賞与で損金不
算入、従業員:賞与)の課税関係がある。
③ 法人(売手) ⇒ 個人(買手)
低額譲渡の場合
売手:取引部分(La)は、法人税(譲渡益)が課税され、低額部分(Lb)については、時価で
譲渡したものと取り扱われ、寄付金または賞与(第三者:寄付金課税、役員:役員賞与
で損金不算入、従業員:賞与)および、法人税(みなし譲渡益)の課税関係となる。
買手:低額部分(Lb)については、所得税(第三者:一時所得、役員・従業員:給与所得)が
課税される。
高額譲渡の場合
売手:時価部分(Ha)は、法人税(譲渡益)が課税され、高額部分(Hb)は、法人税(受贈益
)が課税される。
買手:高額部分(Hb)は、課税関係はない。
④ 法人(売手) ⇒ 法人(買手)
低額譲渡の場合
売手:取引部分(La)は、法人税(譲渡益)が課税され、低額部分(Lb)については、時価で
譲渡したものと取り扱われ、寄付金課税、および、法人税(みなし譲渡益)の課税関係
となる。
非上場株式が自己株式の場合、取引価額と資本金等の額の差額は、法人税(受取配当金
収入:益金不算入規定あり)、資本金等の額と取得価額の差額は、法人税(譲渡益)と
なる。
買手:低額部分(Lb)については、法人税(受贈益)が課税される。
非上場株式が自己株式の場合、資本等取引に該当するため、原則として法人税(受贈益
)は課税されないが、合理的な理由がない場合、課税される可能性がある。
高額譲渡の場合
売手:時価部分(Ha)は、法人税(譲渡益)が課税され、高額部分(Hb)は、法人税(受贈益
)が課税される。
買手:高額部分(Hb)は、寄付金課税の課税関係となる。
なお、本稿における非上場株式の課税上の取扱いについて、税法に明確に規定されていない部分については、筆者の私見であることを最後に申し添える。