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スピンオフ税制活用
物言う株主に配慮

 物言う株主(アクティビスト)が、カネ余りを背景に、資金力とともに世界的に増加しており、日本においては導入されたコーポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードも伴い、富士フイルムホールディングスによるゼロックスの買収など、アクティビストのターゲットにさらされている。

 アクティビスト

 アクティビストのターゲットとなる会社の共通点は、不適切なM&A取引(ミスプライシングなど)を行った会社、自己資本比率の高い会社、株式投資収益(ROE)の低い会社、余剰な現預金のある会社、経営陣が能力的に脆弱な会社、株価の割安な(PERが低い)会社など多岐に亘る。特に、余剰現預金のある会社に対して配当増額や自己株式取得、自己資本比率の高い会社に対して自己株式取得による株主還元を要求する。最近では、コーポレートガバナンスに関連して、社外取締役の選任、買収防衛策の廃止、政策保有目的の株式売却なども挙げられる。さらに、不採算事業の切り離しを要求する事例も出てきている。

 アクティビストが着目する点でもある株価の割安さの要因の一つとして、コングロマリット・ディスカウントが挙げられる。コングロマリット・ディスカウントは、直接関連性のない事業を同時に展開している複合企業であり、シナジー効果を生まない事業を同時に展開していることで、経営資源の分散、経営の複雑化による非効率性、個々の事業の競争力低下、証券アナリストの保守的な評価などのデメリットがある。コングロマリット・ディスカウントによる株価の割安さに対して、上記の通り、アクティビストによる事業の選択と集中が促されている。

 スピンオフ活用

 日本では、平成29年度税制改正により、組織再編税制の改正が行われ、その中でスピンオフ税制の導入や適格要件の見直しに伴い、事業の選択と集中が促進される環境が整備された。なお、スピンオフ税制に関しては、別稿「カーブアウト支援と平成29年度税制改正」も参照されたい。

 海外では、スピンオフの活用が多く、最近では、2017年8月31日付けで、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーとデュポン社が経営統合(統合会社はダウ・デュポン)したが、業績不振の農業関連、素材科学および特殊化学品の3部門はスピンオフを活用してそれぞれ2019年中までに分割される予定となっている。

 日本では、スピンオフ税制導入に伴い、事業の選択と集中により、コングロマリット・ディスカウントの解消が図られるが、海外に比べてスピンオフの導入が少ないのが現状である。その要因として、スピンオフは事業の切り出しの対価である株式を既存株主に交付するスキームであるため、自社にキャッシュインフローが伴わない事が考えられる。

 国内適用第1号として、フィットネス事業のカーブスホールディングスがカラオケ事業のコシダカホールディングスの子会社からスピンオフして上場している。

 自社都合か、それともアクティビストへの配慮か、特に上場会社の経営者にとって、企業価値の向上のために、事業の選択と集中に舵を切り、スピンオフの積極的な活用が問われることになる。

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