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財務デューデリジェンスと企業価値評価の連携

- 財務DDの調査項目および価値評価手法から -

デューデリジェンスとバリュエーションはどのように連携する?

 買手(バイサイド)は売手(セルサイド)の株式または事業などを取得する際に、当該取引によって損害が生じる場合、取締役の善管注意義務違反として、株主による代表訴訟の可能性があるため、特に上場企業においては、実務上、株主に対する説明責任および経営責任を果たすためにデューデリジェンスおよびバリュエーションレポートを外部アドバイザーから取得することが一般的である。一方で、非上場のオーナー企業においては、外部アドバイザーに委託せずに自ら調査等を実行する場合がある。

 M&Aビジネスの実務が組織的に体系化されてきているのは、およそこの10年くらいであろう。言い方を変えると、歴史がまだ浅いビジネスと言える。しかし、上記の通り、上場企業などを中心にM&A・組織再編において、外部アドバイザーからレポートを取得する事と裏返しに、アドバイザーにおいてもデューデリジェンスおよびバリュエーションのプラクティスが相当に積みあがっている状況であり、市場ではサービスのコモディティ化が進行している。

 本稿では、実務として定着してきているデューデリジェンスおよびバリュエーション相互の連携について、財務デューデリジェンスの調査項目およびバリュエーションにおける企業価値算定手法の観点から述べたい。

企業価値評価の手法と財務DDの連携

 はじめに、株式価値評価の手法は、インカムアプローチ・マーケットアプローチ・ネットアセットアプローチのいずれか、あるいは全てを合理的に採用してレンジで評価する事が一般的である。株式価値の算定式は、下記の通り、「事業価値」、「非事業用資産」、「純有利子負債」、「資産(時価)」、「負債」、これらが評価の主要な構成要素となる。本稿では、特にデューデリジェンスとの連携に関係するインカムアプローチおよびネットアセットアプローチの評価手法にフォーカスする。

 株式価値 = 事業価値 + 非事業用資産 - 純有利子負債
      = 資産(時価) - 負債

① 事業価値

 事業価値は、将来計画期間におけるフリーキャッシュフロー(Free Cash Flow:FCF)を加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital:WACC)で割り戻した現在価値として算定される。ここで、インカムアプローチの中でも代表的な手法であるDCF法(Discounted Cash Flow Method)の場合、FCFは下記算式によって表され、特にデューデリジェンスとの関係で重要な項目は、EBITDA、運転資本、設備投資となる。財務デューデリジェンスにおいて、過去実績の正常な収益性・運転資本推移、設備投資を分析する事により、将来計画の蓋然性について、過去から将来への連続性を検討する。また、ビジネスデューデリジェンスにおいて、対象会社の外部環境・内部環境を分析し、将来計画推移の蓋然性を併せて検討する。なお、法人税等については、価値評価上、対象会社における過去実績の法人実効税率、将来の税率改正、繰越欠損金などを考慮して、簡便的に試算する事が一般的である。

FCF = 税引前営業利益 - 法人税等 + 減価償却費 - 運転資本増減 - 設備投資
   = EBITDA - 法人税等 - 運転資本増減 - 設備投資

② 非事業用資産

 売買目的有価証券、ゴルフ会員権、遊休不動産など事業運営上、必ずしも必要でない資産は非事業用資産として、株式価値算定上の加算項目とする。財務デューデリジェンスにおいて調査基準日における貸借対照表に計上されている資産のうち、非事業用資産を区分把握する必要がある。

③ 純有利子負債

 純有利子負債は、借入金・社債などの将来的にキャッシュアウトが生じる性質のものであり、株式価値の減算項目とする。財務デューデリジェンスにおいて調査基準日における貸借対照表に計上されている負債、有利子負債に準ずるものおよびオフバランス債務を区分把握する必要がある。なお、ここでの現預金等は運転資金に最低限必要な現預金や拘束性預金を除いた余剰現預金である。

純有利子負債 = 有利子負債 - 現預金等

④ 純資産

 純資産法においては、資産の簿価と時価の乖離リスクを反映させるため、有価証券、不動産、在庫などを時価情報を用いて置換する。財務デューデリジェンスにおいて調査基準日における貸借対照表に計上されている上記資産の時価情報を入手して簿価時価の比較を実施、また負債については、純有利子負債と同様に有利子負債に準ずるものおよびオフバランス債務を区分把握する必要がある。

純資産 = 資産(時価) - 負債

価値評価手法

評価手法 インカム
アプローチ
マーケット
アプローチ
ネットアセット
アプローチ
手法例 DCF法/収益還元法
/配当還元法
株価倍率法/取引倍率法
/市場株価法
時価純資産法
/修正簿価純資産法
概念図 DCF法
事業価値
= FCFの
現在価値合計
純有利子
負債
株式価値
非事業用資産
株価倍率法
事業価値
= 類似上場会社の倍率
× 対象会社財務数値
純有利子
負債
株式価値
非事業用資産
時価純資産法
資産
(時価)
負債
株式価値

 以上が、株式価値の評価手法および財務デューデリジェンスとの連携の概観である。

財務デューデリジェンスにおける調査項目

 つぎに、バリュエーションとの連携の観点から、財務デューデリジェンスにおける具体的な調査項目および手続きは「調整EBITDA」、「調整運転資本」、「調整Net Debt」、「調整純資産」を分析して試算することが通常である。これら分析の基礎となる調査項目について、下表に例示する。

① 調整EBITDA

 EBITDAの構成科目の内容を把握し、営業損益段階の費目から非経常的な損益を減算する一方で、営業外・特別損益段階の費目から経常的な損益を加算することによって、過去実績における正常な収益性を分析把握する。また、将来、事業の撤退など、発生しなくなる事が明らかな損益についてはプロフォーマ調整として別途調整の対象とするか検討する。調整EBITDAの過去実績推移から、当該調整項目の内容について将来計画FCFへ織り込みの必要性を検討することになる。

② 調整運転資本

 資産・負債の構成科目の内容を把握し、運転資本に相当する勘定科目を抽出、また非経常的な運転資本を減算することによって、過去実績における正常な運転資本推移を分析把握する。同様に、調整運転資本の過去実績推移から、将来計画FCFへ織り込みの必要性を検討することになる。

 さらに、月次・日次レベルでの運転資本推移を分析し、事業運営に必要な最低現預金残高を把握する。基準日における貸借対照表に最低現預金残高を計上させる必要があれば、調整Net Debt(下記③)へ織り込みの必要性を検討することになる。

③ 調整Net Debt

 資産・負債の構成科目の内容を把握し、将来、キャッシュアウトが生じる有利子負債、有利子負債に準ずる項目およびオフバランス債務などを抽出加算する。一方で、現預金残高の減算と同時に、上記、必要最低現預金の加算調整を検討し、また売買目的有価証券、遊休不動産、ゴルフ会員権などの非事業用資産を減算調整することによって、調整Net Debtを把握することになる。

④ 調整純資産

 資産・負債の構成科目の内容を把握し、将来、キャッシュアウトが生じる有利子負債に類似する項目およびオフバランス債務などを抽出加算する一方で、有価証券、不動産、在庫などの時価情報を把握し、調整純資産を検討することになる。

財務DDの調査項目例

調査項目 詳細
全般 全般 会社概要 事業内容・沿革・株主構成・組織図などの概要
関連当事者取引 グループ内の関連当事者との取引内容
グループ外の関連当事者との取引内容
連結 主要な連結処理の内容
議事録 株主総会・取締役会・経営会議の議事録
構造改革 主要な構改革の内容および会計処理
組織再編 主要な組織再編の内容および会計処理
会計監査 会計監査人の監査報告書・マネジメントレター
会計方針 会計処理や財務諸表の表示の方法
PL 収益性 トレンド分析 事業別・製品別・地域別・サービス別・得意先別損益の増減
製品別・サービス別の売上単価および売上数量の推移
主要得意先、仕入先との取引内容および条件
ロイヤルティ、ライセンス収入の内容および条件
調査基準日における受注残高とその確度
コスト構造分析 変動費・固定費の内容・増減、損益分岐点
原価計算方法、原価差額の内容
配賦費用の配賦基準
人件費および人員構成の推移
営業外・特別損益 内容・増減
調整EBITDA 正常収益力調整
BS 運転資本 売上債権 主要な得意先の取引内容・金額・回収条件等
回転期間
貸倒実績、貸倒引当金の計上方針
年齢表、滞留債権の回収可能性
棚卸資産 年齢表、滞留在庫の回収可能性
評価減の計上方針、評価損・廃棄実績
在庫の管理方法、棚卸実績
仕入債務 主要な仕入先の取引内容・金額・支払条件等
回転期間
長期購入取引・長期未払債務
運転資本 月次運転資本の推移
季節性の要因
調整運転資本 正常運転資本調整
Net Debt 有利子負債 借入金・社債の調達条件
設備債務 設備未払金・設備支払手形
リース債務 オンバランスリース債務
オフバランスリース契約の未経過リース料等
流動化債権・資産 ファクタリングの有無・金額・条件
デリバティブ 取引方針、時価評価
引当金 製品保証引当金などの内容、計上方針
偶発債務 主要な保証債務の内容
訴訟リスクの内容
買戻条件付販売契約、瑕疵担保責任
基準日から契約で定めた調査時点までに発生した重要な後発事象
資金繰り 必要最低現預金残高
現預金等 担保差入預金等の拘束性預金
短期投資等、現預金同等物の有無
余剰現預金
非事業用資産 売買目的有価証券、ゴルフ会員権等の保有目的、評価減
不稼動・低稼働資産、遊休資産、除売却予定資産
非事業用資産の時価情報
調整Net Debt 純有利子負債(負債相当含む)のNet Debt調整
その他 退職給付債務 退職給付制度の内容
退職給付債務の計算資料・年金資産の時価資料
固定資産 内容および科目別増減
不動産の時価情報
減損の実施および減損会計の適用状況
税効果 一時差異および評価性引当額の内容、繰延税金資産の回収可能性
引当金 賞与引当金などの規定、計上方針
純資産 調整純資産 時価情報による純資産調整
CF Capex 設備投資 設備投資の状況、老朽化
設備除売却の状況および除売却予定のある資産
研究開発投資 研究開発投資の状況

補足 - 実は連携しない!? -

 ここまで、本稿のストラップラインに記載の通り、「デューデリジェンスとバリュエーションはどのように連携する?」について述べてきたが、デューデリジェンスとバリュエーションは「独立し、連携しない」場合があるのが実態である。特に、過去実績の正常な収益性や運転資本推移について、過去から将来への連続性の参考情報となるが、対象会社から提示される将来計画を買手(バイサイド)がどのようにみるかは、買手の意向に影響するため、必ずしもデューデリジェンスの発見事項を全て将来計画へ織り込み、価値評価をするわけではない。また、価値評価は、レンジで算定する事が一般的であり、価値評価に用いる財務情報を精緻化する合理性の観点からも、デューデリジェンスとは独立して、バリュエーションの前提条件を簡便的に設定し価値を算定する場合がある事を補足させて頂く。

 なお、本稿における財務デューデリジェンスの調査項目は筆者の経験の中で一般的な手続きを列挙したものであり、調査の網羅性を保証するものではなく、また意見にわたる部分については、筆者の私見であることを最後に申し添える。

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